16 大阪弁のドライブ


砂嘴の上に建つ街、ポール・ルカトゥとポール・バルカレは
陸から眺めて想像していたのとは大きく違った。
昔から海の民が棲みつき、その頃からの古い建物や港が
時代に取り残されている…、ボクの想像はこうだった。

ところが、そこには海の民なんぞ
きっと住んではいなかったのだろう。
入ってみると“レジデンツA”とか
“レジデンツB”などと書かれた標識がある。
ところどころにキャンプ場やホテルがあるが、その数は少ない。
あの蜃気楼は、新しい時代にできた別荘の集まりだったのだ。

がっかりしたボクは、再びオートルートに乗った。
こうなりゃニースに行くしかない!
ニースに行くには、NimesからSalonまで、一般道を通るのが速い。
オートルートは、リヨン方面からイタリア方面と
同じく、リヨン方面からスペイン方面には延びているが
地中海に沿ってスペインからイタリアへのルートなどは
考えられていない。
一般道[N113]を使ってバイパスすべく
ニームでオートルートを降りた。


ペルピニャンからニームまで
オートルートは
海岸から10km程度内側に入った
やせた土壌の山裾を走る。
白っぽい岩が転がる山肌には
エニシダが自生している。
ニームから先の一般道は
アルルを通り抜け
ローヌ川河口の農村地帯を走る。
中央が両方向の追い越し用になった
慣れないと非常に危険な
3車線区間もフランス的。


一般道とはいえ、そこはフランスの田舎。
標識には110km/hとか90km/hなんて出ているが
結局はオートルートと同じ
早くニースに着きたかったので、けっこう飛ばしていたら
メルセデスの300Eに追い付いた。

どうも様子がおかしかった。
その前にいるプジョーの405を
十分抜ける相手なのに抜こうとしないのだ。
プジョーは、遅い車を抜くと、ちゃんと走行車線に戻っている。
メルセデスは、ときおり追い越し車線をそのまま行きそうになるが
プジョーと並ぶ前にブレーキをかけて戻ってしまう。

ボクもしばらく後ろに従っていたが
我慢できなくなってメルセデスを抜き
次にプジョーを追い越そうとした。
プジョーの前方にはトラックがいたが
こっちが先に追い越し車線に入っているから
プジョーが待つのが当たり前だ。

ところが、ボクのモンデオのフロントが
プジョーのリアに並びかけたとき
いきなりプジョーがこっちに寄ってきた。
しかたがないからブレーキをかけた。
プジョーのドライバーは
髪の毛を伸ばした、軟派ふうの男だった。

“どこの国にも、どうしようもない運転のヤツっているよなぁ”
と思った次の瞬間、ストップランプが光った。
「バカヤロ~!」
右側をトラックに塞がれているから、逃げ場はない。
思い切りブレーキをかけたが
プジョーもブレーキを緩めなかった。

車間距離は数十センチしかない。
ブレーキをかけながら
ガードレールぎりぎりまで左に寄ってみたが
分離帯のガードレールとプジョーの間に
車が入れるような隙間はなかった。
「コrrrrrラ! バカモン!」
なおもブレーキングを続けるとプジョーのストップランプが消えた。
悪質なイタズラだ。
「いちびったことすんにゃったら、相手よぉ見てからせぇよ!」

トラックを抜いたところで、プジョーは走行車線に戻った。
サードギアにシフトしていたボクは
思い切りアクセルを踏み込んで追い越しにかかった。
また寄ってくるかなと思ったが、その気配はなかった。
真横に並んだところで、ちょっとハンドルを右に切り
右手を思い切り横に伸ばして中指を突き立ててやった。
ヤツはそれっきりおとなしくなった。

そこからニースまでは
何事もない、平和なクルージングだった。


再びオートルートに乗る
Salonの街の入口に
いつも立ち寄る八百屋さんがある。
6月は、ボクの大好きは
アスパラガスや
アーティチョークなどが旬。